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Selfishly

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SRT Pa5「標的の先」


スローライフt(third)


             P5「標的の先」
             H19、11/26 22:15


「げっ・・・」

思わず上げた奇声に、周囲から失笑が洩れる。
が、別にエドワードが奇天烈な言動をしたと言うわけではない。
まぁ確かに、少々面白いと言えば、面白い行動だったのかも知れないが。
発砲した弾が的を見事に大きく外れて、後方に飛んでいったのだから。

「君にも苦手なモノがあるって判って、ちょっと嬉しいよ」

そう慰めの言葉をかけながら、肩を叩いて励ましてくれたのは、
ここに来ていらい仲良くしている筆頭のテオだった。

その励ましに、顔を顰めて嘆息し、手に持った銃を返す返す見つめる。

「・・・この銃、重心が狂ってんじゃないのか・・・」

思わず呟かれた言葉も、さもあらん。
エドワードは、この授業が始まってから、まだ的に命中するどころか、
掠ってもいないのだから。

「そんな事はないとは思うけど・・・。
 どれ、貸してみて」

そう言いながら手を差し伸べてきたテオに、渋い表情のまま銃を手渡すと、
後方に控える為に、移動する。
他の控えているメンバーからも、肩や背中を叩かれ、
「どんまい」の言葉に、更に肩が落ちる。
『皆、見てたんだよな~』内心、ガックリとした言葉を吐きながら、
前面の射撃上の立ち位置に立ったテオを見ると。

ガゥンと鋭い音が鳴り響くのとほぼ同時に、前方の標的のほぼ中央にヒットする。

「おお~!」と周囲からの感性が上がると平行して、続いて連打で打ち込まれる。
その悉くが、中央にヒットすると、周囲からも拍手が起こって、
テオを囃したてている。
こちらに戻ってくる彼が、周囲に軽く手を上げて応えると、
エドワードの前に戻ってきて、銃を返してくる。

「やっぱり、何ともないようだね」

嫌味でなく、自然とした態度の言葉に、エドワードも消沈した表情で、
頷いて、銃を受け取る。

「そっ・・・だな。 悪いのは俺の腕ってわけだよな~」

はぁーと大きなため息に、周囲に集まっていたメンバーも、
苦笑しながら、気遣って言葉をかけてくれる。

「いいじゃないか、エド。 
 お前は、他は抜群に良いんだから、銃火器の1つ位苦手でも、
 愛嬌ってもんだろうが」

燃えるような赤毛に茶褐色の瞳を持つ彼は、背丈も横幅もがっちりした青年で、
名をブルーノ・ブライテンバッハと言う。
明朗快活な性格に合わせた、おおらかなで大雑把な言動をするが、
状況を読むに長けており、機敏な行動力と、格闘技に優秀な生徒だ。

「そうですよ。 僕も銃火器はあんまり得意じゃないですし、
 エドには、あんなに凄い錬金術があるんだから、
 銃の扱いが少々苦手でも、いいじゃないですか。
 僕なんて、体術も苦手なのに・・・」

エドワードの話をしていて、我が身を振り返ったのか、
こちらも、重いため息を吐き出す。
エドワード同様に小柄な彼、クルト・ベーメは大きな瞳に
クルクルとよく変わる表情を映しながら、エドワードを見つめている。
愛嬌があり、人の機微に聡く、状況に合わせて立ち回るのが上手い為、
かなりの情報通だ。 格闘技・武器の扱いはイマイチの彼の得意は、
情報収集と分析能力で、柔軟な発想の着眼点の良さには鋭いものを見せてくれる。

「そうそう。 クルトに比べれば、全然マシだな。
 お前、マジ頑張らないと、卒業単位に届かないぞ」

ダニエル・ビンッスが、クルトの額を小突きながら、笑うと、
クルトが必死に抗議し返している。
ダニエルは堅実な気質の努力家で、戦略・戦術のオペレーションを組むのを
得意としており、授業の実演では参謀として活躍を見せている。

テオとこの3人を交えて、エドワードと一緒に組んで集まっている事が多い。
それぞれが、1芸に秀でており、エドワードが彼らから遅れている分を教わる内に、
自然と集まってきた学友だ。

「でもさ、エドは他の武器関係は上手いのに、銃火器だけ苦手ってのも
 不思議だよな~」

ブルーノが、心底不思議そうに顎に手を置いて、首を捻る。
彼自身は、銃火器以外の武器も扱うのが得意で、学年でも上位の位置に居る。

「ナイフや短刀の扱いも、凄いものがあるのにな」

ダニエルも意見に賛同する意見を言う。

「ん~、何でだろうな? 狙ってる時は、絶対に外れないでいけてると思ってるんだけどさ。
 いざ打つと、必ず外れるし、自分でもそれがわかっるんだけどな」

「そうだよな。 的への狙いは正確なはずだぜ。
 なんせ、ナイフ投げであれだけ動く標的でも的を外すこともないしさ」

短刀の扱いで披露したエドワードのナイフ投げの腕前は、教師も唸らせ、
学友達が絶賛した程の腕前だったのだから、不思議がるのも当然だろう。

「まぁナイフ投げは、修行の時に生きるのに必死で覚えたんで・・・」

苦い思い出に、苦笑を浮かべて呟くと、クルトが「やっぱり、錬金術の修行は厳しそうだよね」と
感心しきった言葉を返してくる。
それに、ああまぁと曖昧な相槌を返していると、号令がかかる。


「全員、終わったか? 集計を書き込み終わったら、こちらにもってこい」

教師のダン・ホールの号令で、それぞれのリーダーが集計票を持ち寄り、
生徒たちは、整列して教師の指示を待つ。
集計票を眺めている教師を待っている間は、整列している生徒たちにとっても
緊張する時間だ。 補講の成績如何によっては、再補講も受けていかねばならず、
時間の制約が多い中、1つでもクリアーして先に進まねば、卒業時の成績に響くのだから。

ダンが数度満足そうに頷いたり、苦笑を浮かべたりして集計表を見ている中、
エドワードの心情は、暗澹たる気分だった。
まず間違いなく、自分が再補講になる事は免れないが、今の詰めている授業の中で
その時間が捻出されるかが、大問題だ。
自分の腕前を考えても、一朝一夕に上がりそうも無い今。 今後、どれ位時間を取られるかと思えば、
珍しく弱気にもなってくる。 
土曜に特別授業を組み込めば、多少は時間のゆとりも出来るだろうが、
それを許してくれない人物が居るとなると、どこかで組み替えていかなくてはならないだろう。
内心で、重いため息を付いていると、それをまるで見透かしたように、
苦笑しながら自分を見ているホール教師と目線が合う。

その後、視線を全員に廻らすとはりの良い声で、結果を伝えていく。

「では、最初に話した規定どうり命中率80%を下回る者は、
 次回の補講の受付をするように。

 60%以下の者は、今週中に再補講を受けてから、来週の補講に再度参加だ。
 今回、80%以上の者は、次回からは選択で構わない。 以上」

教師の号令で一斉に敬礼を返して、生徒たちは散会していく。
予想どうりの結果に、気落ちしながらメンバー達と、射撃場から歩き出していると、

「エルリック。 ちょっとこっちに来い」

数人の生徒に囲まれて談笑していたホールが、呼び止めてくる。

先に戻っていてくれるように声をかけてから、ホール教師の傍に近づいていくと
入れ替わりにホールを囲んでいた生徒たちも、その場を離れて校舎に戻っていく。

「はい、お呼びでしょうか?」

窺うエドワードをじっと見ているホールに、戸惑いながらも、
話を聞く為に視線を合わせたまま、黙って待つ。

「エルリック。 何故、的に中てなくてはならないか、わかっているか?」

真剣な表情で告げられた言葉に、思わず言葉がなくなる。

「お前は、的に中てないように打っている。
 それではいくら補講を受けようが、的に中るはずがない。

 何せ、お前の腕で外すように狙っているんだからな」

ホールの予想外の言葉に、エドワードの思考が一瞬固まる。

理解不可能と表情に書かれたエドワードの驚き顔に、ホールが笑う。

「何だ、無意識か? なら尚更、的に中てる意味を考えて来い。
 再補講は、お前が答えを出した日に行う事にする」

ホールの行けと言う仕草に、茫然としながらも敬礼して踵を返すが、
戻る足並みは、重く緩慢にしか動かない。
ノロノロと歩きながら、ホールの言葉を繰り返し考える。

『的に中てる意味? 中てるって事は、当然相手の動きを封じる為で・・・』

エドワード達生徒が狙っている的は、今は唯のボードだ。
が、実戦となれば当然、相手は人間だ。
勿論、テロや犯人等の罪を犯している相手ではあるが、人である事は変わりない。
状況が許され、精巧な腕前があれば相手を殺めずに済ますことも出来るが、
それが出来ない状況の時には、当然そうできない、許されない事もあり・・・。


「どうした? ホール教師から何か言われたのか?」

ブルーノに掛けられた声で、更衣室に戻ってきた事に気づき、
メンバーが待っていてくれた事を知る。

「あっ、ごめん。待っててくれてたのか?」

礼を伝えながら、急ぎ着替え始めたエドワードの周囲を囲むようにし、
様子を窺ってくる。

「ん~、何かって言うか課題と言うか・・・」

「課題?」

テオが顎に手をやりながら、首を捻って聞き返してくる。

「ああ・・・、的に中てる意味を考えて来いって言われてさ」

「的に中てる意味~? んなもの、犯人拘束の為だろ?」

ブルーノが、何を当たり前の事を、と驚いたように返事を返す。

「ああ、俺もそう思うんだけど、でもあの言い方じゃ、
 そんな事を聞いてきたわけじゃないだろうから、他に何があるのかなっと」

ロッカーの扉を閉めながら、自分の荷物を持つと、皆もわらわらと更衣室を出る為に動き出す。

「犯人を拘束する以外となると、射撃の腕を上げて、
 成績を上げて、補講を免れるとか?」

「それは、お前の願望だろうが」

クルトの言葉に、ダニエルがすかさず呆れたように突っ込みを入れている。

「検挙率アップとか?」

「それなら、司令部の成績とか個人の評価もか?」

「そうなれば、自分が所属している部署の成績が上がって、
 仕事もしやすくなるよな」

口々に出る答えを聞きながら、エドワードも考えていく。

エドワードが銃を持ったのは、士官学校に来てからだ。
大半の者も同様だろう。
軍属で過ごしてきていたから、銃は見慣れてはいたが、
自分には無用の物だった。
それにエドワードには、銃よりも扱いに慣れている錬金術があった。
錬金術は、色々な目的によって使い分ける事が出来る。
物を修繕する小さな事から、人を助ける事や、物を作り変えて目的の物を取り出す事や。
勿論、戦いの為にも使っては来た。 
相手を倒すためや、捕縛するため、障害物を取り除くため。
が、銃の弾の先には1つしかないではないか。
相手を傷つけるか、殺傷する。 それの意味とは、一体何があると言うのだろうか。

何度も考えながら、同じような疑問に突き当たる。
大衆の為に拓かれた錬金術を学んできたエドワードにとって、
無機物の人を殺すために作られた武器とは、どうしても相容れない気がして、
答えは行き詰るばかりだ。

その夜、自室に戻ったエドワードは、何度か躊躇った後に、
受話器を持ち上げて、1つの可能性のある人物に電話をかける。

数度のコールで繋がった先は、直通なので大抵は本人が出る。

『はい。 当方司令部リザ・ホークアイです』

「こんばんは、忙しい時に申し訳ありません」

本人が出てくれた事にホッとしながらも、忙しい相手を思って、
謝罪の言葉が出てくる。

「あら、エドワード君・・・いえ、エルリック少佐ね。
 お久しぶり」

固さが取れた柔らかな口調で返された声に、エドワードも緊張を少しだけ解いて、
ホッとしながら、挨拶を返す。

「本当にお久しぶりです、ホークアイ中佐。
 そちらは、皆元気ですか?」

『ええ、相変わらずな感じだけど、誰もへたる人もいないようだから、
 何とか大丈夫なんじゃないかしら』

笑いを含んだ言葉に、エドワードも小さく笑って返す。

『で、どうかしたの? 少将には内緒にしたい事柄かしら?』

さすがに察しの良い答えに、エドワードが説明をする。

「う・・・ん、別に内緒とかってほど大層な事じゃないんだけどさ・・・。

 そのぉ、中佐はライフルの名手だから、違う視点の話が聞けるかと思って」

『違う視点?』

「うん、今日の授業で質問された事なんだけど、考えた答えが、
 どれも正解じゃない気がして・・・、忙しい時に迷惑だと思ったんだけど、
 このままじゃ、答えが出ない事になりそうで」

『そうなの? 迷惑なんかじゃないわよ、私でアドバイスできるなんて光栄よ。
 どう言った話なのかしら?』

エドワードの躊躇いを判って、茶目っ気を交えての返答を返してくれる。
忙しい中に、私事で時間を割いて貰う事に感謝の気持ちを持ちながら、
昼にあった話をしていく。


『そう。 その教師の方が、そうおっしゃったのね』

考えながら話しているのか、ゆっくりと確認をするように言葉を告げてくる。

「うん。 色々と皆とも考えた答えも間違ってないと思うし、正論の気も
 するんだけど、そう言う事を言われたような感じじゃなかった気がして」

『そうね、間違ってはないけど・・・。 それは、手段であって目的ではないかもね』

「目的ではない?」

『ええ、確かに犯人を拘束する為や、事件を解決する為に、銃やライフルを使いはするけど、
 目的は、エドワード君が錬金術を使うのを同じではないかしら?』

「俺の錬金術と!?  それは、違う!」

思わず自分が先ほどまで考えていた事を否定されたような気になって、
力が籠もった否定を返してしまい、はっと気づいて、言葉を抑える。

『どうして?』

そのエドワードの様子にも、別に動揺する事もなく、
リザが落ち着いた声で、尋ねてくるのに、エドワードも自分を落ち着けて
言葉を返そうとする。

「だって・・・、俺が錬金術を使うのは、人を助けたり、自分を助ける為で、
 銃は・・・」

自分が言おうとした言葉が、相手に酷く失礼にあたる事に気づいて、
言葉を濁す。

『人を殺める為だと?』

言葉を続けるように、言われたことにエドワードは、小さく返事を返す。

『確かに銃は、そう言う目的で作られたものだわ。
 でも、それを使う理由は1つではないのではないかしら?』

「使う理由?」

『ええ。 私は指示があれば銃を、ライフルを使うわ。
 でも、人を殺めたいと思って扱うのではない。
 救う為に使うのよ』

リザの言葉に、エドワードが押し黙る。

『犯人を野放しにしておけば、人質が捕られている状況なら、
 時間が過ぎれば過ぎるほど、人質の命の保障は低くなる。
 もし、取り押さえられなければ、それ以後の犯行によって、
 多くの人が死傷を負うかも知れない。
 
 だから、正確に打つのよ、犯人をね。
 私が打つのは標的ではないの。 その後の未来を救うこと』

静かに語られる言葉には、詭弁の為でも、自身の正当性を主張する為のものでもない。
自分が行っている行動の意味を知り、尚、先を見つめる冷静な姿勢だ。

「ごめん・・・。 
 俺、どこかで銃より錬金術のが、崇高だと思ってんだと思う。
 錬金術は人の為にあって、銃は人を殺めるのが目的で作られたからって・・・」

『いいのよ、私に錬金術が使えて、銃を扱わずに済むなら、エドワード君と同様の事を
 していけたのかも知れないけど。
 殆どの人間は、錬金術は使えないし、そこまでのレベルに到達も出来ないでしょ?
 だから、私は私が出来る事で、目的を叶える為に行動をしていくの』

何を扱うのかが大切なのではなく、扱って何を成したいかに照準を合わせれば、
目指すものは同じなのだ。
エドワードは、自分の驕りを見せつけられたような気になり、
酷く恥ずかしくなる。 

「本当に・・・ごめん」

意気消沈した声での謝罪に、クスクスと柔らかな笑い声が返される。

『どうして? 気にするような事じゃないわよ。
 あなたは自分が感じた疑問を素直に言っただけで、
 別に悪い事でも何でもないわ。 
 何も考えずに銃を引くよりも、ずっと大切なことよ』

「うん・・・、ありがとう、凄く参考になった。
 それに、やっぱりごめん・・・すみませんでした」

きっちりと謝り直すと、「いいえ、どう致しまして」と
笑いを含んだ返事が返される。
そんな対応にも、彼女の信念の強さが窺わされた気がして、
更に尊敬の念を深くする事になった。

『あらっ? そろそろタイムリミットみたいだわ。
 折角、久しぶりに話が出来て、楽しかったのに』

そう告げられて、結構な時間を喰ってしまっていた事を思い、
慌てて謝りながら、電話を切ろうと挨拶をする。

「ご、ごめん、仕事中に。
 今日は、本当にありがとうございました」

『いいえ、話せて楽しかったわ。 ちょっと、そのまま待っててね。
 先ほどから、睨んでいる方がいらっしゃるんで』

エドワードが返答を返すのを待たずに、回線は切り替えられ、
暫く待った後に、相手が変わって出てくる。

『やぁ、久しぶりだね』

ぶすりとした低い声が流れてくると、思わず苦笑しながら返事を返す。

「うん、でも4日位だけど」

『4日もだよ』

週末には戻っているから、1週間と間が空くことは無いはずなのだが、
それでも不満のようだ。

『で、どうして中佐なんだい? 
 私でも構わないじゃないか』

問いかけられた言葉に、どうやら中佐との話を聞いていたようだ。

「そうだけど・・・、やっぱ悪いし」

歯切れの悪い言葉しか返せないのは、仕方ないだろう。
ロイがどれだけ構わないと言っても、軍の激職の高官に、
いちいち疑問ごとをぶつけるわけにはいかない。
勿論、自分の上司にあたる中佐にだって、かなり躊躇いがあったのだ。

『悪くない。 軍にかけるのが嫌なら、家にかけてくればいいだろう。
 話せる機会を、棒に振らされた私の事も考えてくれたまえ』

語気強く言われている内容が、拗ねているだけの中身では、
思わず笑いが出てしまう。

『そこは笑うところじゃないだろ? こちらは、真剣なのに』

笑ったのが拙かったのか、不貞腐れ気味に言い返してくる。

「ごめん、ごめん。 これからは、気をつけるからさ」

『全く・・・、君のその言葉に、どれだけ裏切られてきたか』

諦めの嘆息を、わざわざ聞かせてくるロイには無言で返す。
下手な言い訳を言えば、おこ小言が長引くに決まっているから。


『で、答えはわかったのかい?』

「ん、中佐の話聞いててさ・・・、自分の考えてた事に、
 何か、凄く恥ずかしくなった」

『そうなのかい?』

「うん、そうなんだ。 だから、ちゃんと解った気がする」

『なら良かった。 私が我慢した甲斐があっと言うわけだ』

「うん、サンキュー。 中佐には謝っておいてくれよな。
 忙しい中、時間貰っちゃって」

『わかった、伝えておこう。 そう反省しているなら、今度は
 家に居る私にかけてくるように』

そう念を押すのを忘れてない辺り、真剣に悔しがっているのだろう。

「わかった、忘れないようにしておく。
 じゃあ、仕事中にごめんな」

『ああ、また週末に』

「うん」

そう別れの言葉を告げて、受話器を置こうとした矢先に名前が呼ばれる。

『エドワード。 私は難しければ難しいほど、彼女へ仕事を依頼する事が多い。
 彼女の腕なら、最小限の時間と被害で、多くの者や、今後を救えるからだ』

「うん・・・、俺もそう思う。 ありがとう」

『ああ、お休み。 余り無理しないように』

それには返事は返さずに、静かに受話器を置く。
暫くじっと、受話器を見ながら、聞いた話を反芻する。
そして、明日、再補講を頼もうと決心する。
今度は、きちんと的に向かい合って。



翌日、資料に目を通しているホール教師を見つけ、エドワードは呼びかける。

「ホール教師、エルリックですが少しお時間を頂いても宜しいですか?」

真っ直ぐとした視線を向けながら、自分を見てくるエドワードの様子から、
ホールは満足そうな表情で、許可を与える。

「再補講のお時間を頂きたいんですが」

「そうか。 なら、答えは見つかったんだな」

その言葉に、力強く頷きながら、視線を外さずに答える。

「はい。 的の先に」

エドワードの短い返答を問い返すこともせずに、ホールが頷き返す。

「そうか、ならいい。 再補講はいつでも構わないぞ」

掛けられた言葉に、軽く頭を下げて礼を伝えると、
希望の時間を告げる。



闇が周囲を隠す時刻に、射撃場では煌々と灯りが灯されている。
鋭い音が鳴り響くと、その先にある的の板が衝撃で振動する。

「弾が走る軌跡をしっかりと頭と身体に覚えこめ。
 銃はそれぞれの癖がある。 自分勝手に思い描くんではなく、
 きちんと想定して打つんだ」

ホールの指導に頷くと、エドワードはゆっくりと照準を合わせてトリガーを引く。

昨日まで掠りもしなかった的は、今は1砲ごとに中心に近づいて穴が開いていく。
暗闇で光る金瞳は、真剣に前方の的を見据えている。
そして心の目で、的の先に続く未来を見つめて、エドワードは銃を撃つ。
人を殺め、傷つける為だけではなく、その先に救える多くの未来を見つめながら。



[あとがき]

もう、本当にお久しぶりになってしまっております。
やはり新職場で、精神的に疲れてるせいか、
PC拓く気力が萎えてしまって・・・。
メッセージや、通販のお申し込みして下さっていた方には、
本当に申し訳ありません!!
そして、更新がない間も通って下さっていた皆さま!!
本当に申し訳ありません & ありがとうございます。
今回のお話は、特に何という内容ではなく、
エドワードの成長のエピソードの1つって感じです。
短めで申し訳ありません。
生活サイクルも、1月経つと漸く落ち着いてきました。
ボチボチ、更新も上げれるはず・・・。
近況の詳しくは、日記に書かせて頂きます~。m(__)m




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